今回は『帰ってきたヒトラー』の映画の魅力や原作との違いを取り上げます。ヒトラーが第二次世界大戦中の1945年から2014年にタイムスリップし、現代社会に適応しながら復活を目指すというコメディ映画です。
ヒトラーの過去の政策を知っていれば、私達は彼を支持しませんが、当時のドイツ国民は彼を支持しました。「ヒトラーが現代に復活したら世界はどうなるのか?」こんなメッセージが映画にこめられています。
この記事では、原作の小説との違いも併せて解説するので、ヒトラーについて興味がある人は読んでみてください。
(トップ画像出典:https://www.photo-ac.com/main/detail/2747560?title=%E6%99%82%E8%A8%88%E4%BF%AE%E7%90%86%E3%80%80%E3%82%BF%E3%82%A4%E3%83%A0%E3%82%B9%E3%83%AA%E3%83%83%E3%83%97)
『帰ってきたヒトラー』の概要
『帰ってきたヒトラー』は、歴史上の人物であるヒトラーが現代にタイムスリップしたというコメディ小説を映画化しています。ドイツでは200万部以上のベストセラーとなり、世界42カ国で翻訳された小説です。
- 公開:2016年6月17日
- 上映時間:116分
- 主演:オリヴァー・マスッチ
- 年齢制限:無し
- 原作:ティムール・ヴェルメシュ『Er ist wieder da』
原作の題名である『Er ist wieder da』は、ドイツ語で「彼が再び戻る」→「彼が帰ってきた」という意味です。
『帰ってきたヒトラー』の出演俳優
『帰ってきたヒトラー』の主演のオリヴァー・マスッチは、ドイツの舞台俳優です。この映画で一躍有名になり、現在は、数々のTVドラマや映画に出演しています。
オリヴァー・マスッチ(アドルフ・ヒトラー役)
ナチス・ドイツの総統。1945年の第二次世界大戦から2014年にタイムスリップする。TVにヒトラーのモノマネ芸人として出演し人気になる。ザヴァツキと共に行動し、本の執筆、映画主演と現代に対応していく。
ファビアン・ブッシュ(ファビアン・ザヴァツキ役)
TV会社の元社員。会社をクビになり途方に暮れていたところ、2014年にタイムスリップしたヒトラーと出会い、彼と一緒にドイツを旅する。ヒトラーの映像をTV局に持ち込み、復職する。
クリストフ・M・ヘルプスト(クリストフ・ゼンゼンブリンク役)
TV局の副局長。ヒトラーを利用して局内で権力を持つベリーニに反発し、局長の失脚のためにヒトラーのネタを探していた。局長になるものの、番組の視聴率が低迷したためにヒトラーとザヴァツキに協力を依頼する。
カーチャ・リーマン(カッチャ・ベリーニ役)
TV局の局長。ヒトラーを番組で採用し、視聴率を集める。ドイツでタブー扱いのヒトラーを利用した番組制作に局員から反発を受け、ある映像が原因でTV局をクビになる。
『帰ってきたヒトラー』のストーリー
ナチス・ドイツの総統ヒトラーは、1945年の自殺の直前で記憶を失って、2014年のドイツにタイムスリップしする。彼は戦争中と現代のドイツのギャップに驚きながら、仕方なく生活の場所を確保する。
TV局をクビにされたザヴァツキは、自分が撮った映像にヒトラーが映っているのを見て、彼を探し出す。ザヴァツキは、ヒトラーとドイツ中を旅した作品を作り、TV局に企画を持ち込んで見事に復職する。
ヒトラーはモノマネ芸人としてTV局からスカウトされ、デビュー。仕草や話し方が似ているため、視聴者からヒトラーのそっくりさんと人気になるが、あるスキャンダルが原因で番組を降板させられる。
しかし、ヒトラーは自分の復活を描いた小説を執筆し、大ヒット、映画化まで話が進む。ザヴァツキは映画監督となり、婚約者との食事会にヒトラーを連れていく。そこで、彼が偽物でなく本物のヒトラーと気づいたが…。
ヒトラーが行った政策って何があるの?
この映画を見ていると、ナチス・ドイツ政権でヒトラーがどのような政策をしていたかを知らないと、理解が難しいシーンがいくつかあります。ここでは、ヒトラーを行った政策を簡単に紹介しますね。
- 言論・表現の自由の制限、秘密警察による取り締まり
- 軍事拡張、インフラ設備による雇用状況の改善
- 禁煙政策等の国民の健康改善
- ユダヤ人の迫害
- ナチス宣伝用の映画や番組の作成
- ベルリン・オリンピックの開催(聖火リレーはこの時から開始)
映画の中で、戦争経験者のユダヤ人からヒトラーが拒絶されるシーンがあります。ユダヤ人の中には、ヒトラー=ユダヤ人の虐殺を進めた人だと憎んでいる人も…。
ベルリン・オリンピックは、個人同士の競争ではなく、ドイツの国力を宣伝する場として利用されました。皮肉なことに聖火リレーは、ベルリン・オリンピックから始まって現在まで続いています。
ナチス・ドイツの歴史やヒトラーについて知ると、映画でのヒトラーの行動や発言の理由がわかり、より深く楽しむことができますよ。
ヒトラーの格好でドイツを回った撮影
映画では撮影にあたり、主演のマスッチがヒトラーの格好をしてドイツ中を周り、人々の反応を映したシーンがあります。このシーンは全てアドリブで、政党の集会に参加したり、実在する政治家に会ったりしています。
元々ヒトラーはドイツでタブー扱いとなっており、ナチス・ドイツに関連するものは取り締まりが厳しいです。例えばナチス式で手を上げたり、シンボル(鍵十字)を身につけたりすることは禁止とされています。
人々はマスッチが演じているヒトラーを見てカメラを向けたり、一緒に撮影したりしていました。日本で有名人を見つけて、人々がカメラを向けるときと一緒の光景です。
タブーであるはずのヒトラーが、街中で有名人扱いになっているシーンを見て、私は奇妙に見えたのですが、皆さんはどのように思うでしょうか。
原作『帰ってきたヒトラー』を書いたティムール・ヴェルメシュ
『帰ってきたヒトラー』を書いたティムール・ヴェルメシュは、ドイツのジャーナリストで小説家です。大学で歴史と政治学を学び、新聞社や雑誌で記者として働きました。
その後、ゴーストライターとして小説を執筆しますが、自分の名前で出版した『帰ってきたヒトラー』を2012年に出版します。ドイツ国内外で賛否両論ありながらもベストセラーとなり、映画も大ヒットしました。
2020年に『帰ってきたヒトラー』の数年後を舞台にした小説『空腹ねずみと満腹ねずみ』が出版される予定です。難民を受け入れず、国境を封鎖するヨーロッパを描いているようで、内容が気になりますね。
世界42カ国で翻訳されたが反応が様々
原作はドイツでの人気を受けて、42カ国で翻訳されました。ドイツ国内では、TV番組で『帰ってきたヒトラー』の討論番組が製作されるほど、社会に影響を与えました。
一方、隣のフランスでは「この小説がなぜ人気なのかわからない」「で?何が言いたいの?」とレビューで書かれているようで…。
個人的に驚きだったのは、ナチス・ドイツのユダヤ人迫害が一因でできた国家である、イスラエルで本が出版されたことです。自分達を追い込んだヒトラーが主人公の小説の販売がなぜ認められたのか不思議です。
ヒトラーのカリスマ性を認める人や、現代に独裁者が現れる危険性を感じる人、自分の国の現状と重ねる人など国によって様々な感想がありました。
原作と映画『帰ってきたヒトラー』の違い
原作と映画では、設定やストーリーが異なる点があります。両方の違いは主に次の3つです。
映 画 | 原 作 | |
全 体 | 第三者視点でヒトラーを描いている | ヒトラーの心情を中心に描いている |
ファビアン・ザヴァツキ | TV局をクビにされてヒトラーと出会う | 制作会社の社員としてヒトラーと出会う |
クリストフ・ゼンゼンブリンク | ヒトラーのスキャンダルを探す副局長 | ヒトラーをコメディアンとしてスカウトする |
カッチャ・ベリーニ | ヒトラーを重用するTV局局長 | 登場しない |
実は映画の結末は、原作と全く違います。原作の結末を知りたい場合は、小説もぜひ読んでみてください。個人的には原作と映画のどちらとも、現代社会への皮肉がこめられているなと感じましたね。
『帰ってきたヒトラー』の評価・コメント
タブー扱いされている人物を取り上げた作品で注目が大きかったです。人気作品のシリーズなどではないのに、レビュー数が多い印象を受けました。また、評価が平均より高く、作品が高評価されていることがわかります。
- Amazon:4.4(レビュー452件)
- 映画.Com:3.6(レビュー255件)
- Yahoo!:3.91(レビュー482件)
レビューでは、「ドイツの歴史や国内事情を知らないと、この作品がなぜ面白いのかが理解がしづらい」という記載が見られました。この作品をコメディで見るには背景知識を知らないと難しいと見ていて感じましたね。
ドイツに長年、居住してた者ですが、実際の人々の暮らしっぷり、ドイツ人の考え方、ヒトラーが昔の人でもどれだけ今も人々の生活の中に、毒として残っているか、等・・・リアルです。
最後の、危険な存在に気づいた者とそうでない者の、行く末を比べてみて、現代もそうなってる部分があるのかと思うと・・・映画ではありますが、恐ろしい。
これだけだったら、きっと見終わった後に重ーい気持ちにしかならないでしょう。しかしブフっと笑えるところもあって、音楽も軽快なので、ニュートラルな感覚では観れます。現代人に警告を発しています。歴史は繰り返されるもの、であってはならない。
(引用:https://www.amazon.co.jp/gp/customer-reviews/RW8IDX5FQ7S01/ref=cm_cr_dp_d_rvw_btm?ie=UTF8&ASIN=B01N0RKC4H#wasThisHelpful)
○この映画を見る前は結構不安要素が大きいなと思っていたが、良い意味で裏切られた。
ひとつめは実際の市民の中へ飛び込んでいくシーンがしっかりと区切られていて、ヒトラー役の役者さんのアドリブ芸で進行する映画ではなかったこと。
ふたつめはヒトラーと聞くと短絡的に蓋をしてしまいがちなヨーロッパ(しかもドイツの映画)で、「ヒトラーが悪魔的で怪物なのではなく、当時の普遍的な価値観をもつ一般市民が選んだ結果としてヒトラーが生まれた」というコアの部分をしっかりと捉えきっている点である。
○当時ヨーロッパ中に蔓延していたユダヤ人への嫌悪感と、現在のイスラム難民への嫌悪感を上手く対比させていたのも面白かった。結果的にドイツ人とヒトラーはユダヤ人への迫害を最悪の形で実行してしまったが、その構造自体は対象を変え理由を変えて残っていることを示唆している。あと足りないのは民主主義をハックできる「偉大な指導者」だけだ、ということである。
(引用:https://eiga.com/movie/83898/review/)
SFでありがちな設定。何を訴えたかったのかわからない。自分達で考えろということか。ヒットラーがもし生きていたら今のドイツをこう見るだろう的な視点で描かれている。しかしなぜヒットラーなのか?ドイツの政治におけるカオスが垣間見れる。
(引用:https://movies.yahoo.co.jp/movie/356055/review/2923/?c=38&sort=lrf)
『帰ってきたヒトラー』 まとめ
今回は『帰ってきたヒトラー』の作品の魅力を取り上げました。この作品は、ヒトラーを「タブー」ではなく「笑い」の対象としたからヒットしたと思います。
私は学生時代にドイツ文化や政治学を学んでいたので、映画を見ていると笑えるところが多く、コメディより風刺映画として見ました。ブラックジョークが好きな人には勧めたい映画です。
日本ではヒトラーのようなカリスマ性を持つ政治家が現れる可能性は少ないですが、独裁者の政権だけは支持したくないですね。
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